【AICE連載セミナー】第7次エネルギー基本計画と自動車用内燃機関の未来(2/2ページ目)
- コラム
2024.09.10
【AICE連載セミナー】第7次エネルギー基本計画と自動車用内燃機関の未来(2/2ページ目)
(5)内燃機関の未来を過度に悲観すべきではない
それでは、第7次エネルギー基本計画が打ち出す方向性は、自動車用内燃機関の未来にどのような影響を及ぼすであろうか。ここでは、この論点について、掘り下げておこう。
ここでは、先述したように、第7次エネルギー基本計画の策定にあたって、「DXの進行やAIの普及を受けて、データセンターでの電力消費の急増が見込まれ」ている点が重要である。2021年に 第6次エネルギー基本計画を策定した際には、同様に、2050年に向けて電力消費が急増することが想定されたが、その根拠は、主としてEV(電気自動車)の普及に求められた。しかし、今回は違う。第7次エネルギー基本計画が見込む電力消費増加の根拠は、EVの普及ではなく、データセンターの拡充に置き換えられたのである。そのことは、2024年6月6日に開かれた総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の第56回会合で、事務局を務める資源エネルギー庁が配布した「電力需要について」と題する資料が、電力消費増加の理由として、もっぱらデータセンターの新増設を指摘するのみで、EVの普及に言及しなかったことに、端的に示されている【3】。
ここで看過すべきでないのは、日本のメディアのなかに、EV普及をめぐる政府方針について、一部、誤解が存在することである。
2023年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」が閣議決定された際に同時に発表された「参考資料」は、GX関連で今後10年間で見込まれる150兆円超の官民投資のうち最大の項目として自動車産業を取り上げ、同産業で進む34兆円超の投資のうち約25兆円(別掲の「蓄電池製造・開発関連投資」は除く、「電動車関連インフラ投資」は含む)は「電動車」関連だとした【4】。また、政府のGX実行会議で2023年12月に配布された「分野別投資戦略」のうちの「参考資料(自動車)」は、「2035年までに新車販売でいわゆる電動車を100%とする」目標を確認した【5】。
問題なのは、一部のメディアが、これらが言う「電動車」を「EV」であると誤解したことである。「参考資料(自動車)」は、「いわゆる電動車」という表現のあとにわざわざ括弧書きを付し、「いわゆる電動車(電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車)」と明記している【6】。つまり、部分的にでも電気を使って動く自動車は「電動車」に含まれるのであり、2035年までに新車販売で100%を占めることがめざされる「電動車」には、EVだけでなく、燃料電池自動車やプラグインハイブリッド自動車、さらにはハイブリッド自動車も含まれるのである。
一部メディアの「誤報」もあって、将来的にはEVが自動車市場を席巻し、内燃機関を使用する自動車は駆逐されるかのような誤った見方が、日本でも一時、広がった。最近では、このような見方は後退しているが、誤解が完全に払拭されているわけではない。
しかし、自動車用内燃機関が駆逐されるという見方は間違っている。第7次エネルギー基本計画が見込む電力消費増加の根拠はEVの普及ではなくデータセンターの拡充に置かれていること、2035年以降自動車市場を席巻する「電動車」にはプラグインハイブリッド自動車やハイブリッド自動車も含まれること、などから見て、自動車用内燃機関の未来を過度に悲観する必要はないのである。
(6)eフュエルの開発動向と既存インフラ活用の重要性
ただし、自動車用内燃機関が将来にわたって使われ続けるためには、一つの前提条件がある。それは、水素と二酸化炭素を合成して作る合成液体燃料(eフュエル)が普及することである。eフュエルは、使用時に二酸化炭素を排出する。しかし、製造時に二酸化炭素を吸収しているため、二酸化炭素の排出量が差し引きゼロのカーボンニュートラル燃料とみなされるのである。
先に取り上げた「参考資料(自動車)」の関連箇所の全文を紹介すれば、「自動車については、2030年代前半までの商用化を目指す合成燃料(e-fuel)の内燃機関への利用も見据え、 2035年までに新車販売でいわゆる電動車(電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車)を100%とする目標等に向け、蓄電池の投資促進・技術開発等や、車両の購入、充 電・水素充てんインフラの整備、中小サプライヤー等の業態転換を支援する」となる(太字は原資料のまま)【7】。つまり、eフュエルの普及を前提にして、内燃機関を使用するプラグインハイブリッド自動車やハイブリッド自動車の存続が見込まれたのである。
この「参考資料(自動車)」が発表されたのは2023年12月であるが、その6ヵ月前の同年6月に、資源エネルギー庁資源・燃料部は「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 2023年中間とりまとめ」を公表し、それまで「2040年まで」としていたeフュエルの商用化時期を「2030年代前半まで」に前倒しした【8】。このeフュエル商用化時期前倒しを受けて、「参考資料(自動車)」は、プラグインハイブリッド自動車やハイブリッド自動車を存続させる方針を打ち出したのである。
カーボンニュートラルを実現するうえで、最大の課題は、コストを抑制することである。コストの上昇を抑えるためには、さまざまなイノベーションを実現しなければならない。ただし、将来のイノベーションについて、現時点でその内容を予想することは不可能である。したがって、将来のビジョンを描くときに、あらかじめイノベーションを織り込むことは、適切ではない。イノベーションが決定的に重要であることには変わりがないが、あらかじめ準備することが可能な別のコスト削減策にも目を向ける必要がある。
ここで注目すべきは、イノベーションとは別に、確実に成果をあげるコスト抑制策がもう一つ存在することである。それは、既存インフラの徹底的な活用である。eフュエルの最大の特徴は、SS(サービスステーション)を含む既存の石油インフラを、ほぼそのままの形で活用できることである。
それでも現時点では、eフュエルの製造コストは高い。コストが嵩む最大の要因は、eフュエルの合成時に使うグリーン水素の価格が高いからである。しかし、先述したように、原子力を新たな形で活用すれば、グリーン水素に代えて、より低廉なカーボンフリー水素を得ることができるようになり、それを使ってeフュエルを合成することが可能になる。
おわりに
第7次エネルギー基本計画が打ち出す2040年度の電源構成見通しを「空想化」させないためには、原子力を、狭い意味での電源としてとらえるだけでなく、二酸化炭素を排出せずに作るカーボンフリー水素の供給源としても位置づけることが重要である。そして、そのことは、自動車用内燃機関の未来にとっても、大きな意味をもつ。
原子力によって供給されるカーボンフリー水素を合成時に使用すれば、eフュエルの製造コストを下げることができる。そうなれば、内燃機関を使うプラグインハイブリッド自動車やハイブリッド自動車の将来像は、より明るいものとなるからである。
参照文献
【1】資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」、2023年6月21日。
【2】資源エネルギー庁「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」、2021年7月13日。
【3】資源エネルギー庁「電力需要について」、2024年6月6日。
【4】「GX実現に向けた基本方針 参考資料」、2023年2月。
【5】「分野別投資戦略 参考資料(自動車)」、2023年12月。
【6】同前。
【7】同前。
【8】資源エネルギー庁資源・燃料部「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 2023年中間とりまとめ」、2023年6月。